大学院

1.研究室の歴史的と現在

永井良三先生(1995-1999年)が教授に就任された際に、研究様式が大きく変化し3年目以降の数多くの若いスタッフが大学院生になりました。教室には多くの共通実験機器(実験台、遠心機、ディープフリーザー、クリーンベンチ、培養機器など)が設置されました。培養細胞を用いた実験やいわゆる分子生物学的手法(Northern blot, Cloning, reporter gene assay, gel shift assay, etc)が日常的な実験手法になりました。大学院生はAHAでの学会発表を目指し、卒業論文もCirculation, Circulation Researchなど循環器系のトップジャーナルに掲載されるようになりました。倉林正彦(1999年-現在)が教授に就任された後も、同様の研究スタイルが継続されています。2004年(平成16年)に新臨床研修医制度が開始されて以来、専門医志向の高まりに伴い大学院の希望者が減少していますが、海外からの留学生や、保健学研究科修士課程の大学院生も加わり、少数精鋭で、独創性に優れた、質の高い研究を目指しています。最近では、培養細胞を用いた実験より遺伝子改変動物を用いた実験の比重が増しています。マウス病的モデルの実験系(心臓圧負荷、心筋梗塞、大動脈瘤、血管障害、ブレオマイシンによる肺線維症など)も確立してまいりました。他教室や他大学とも積極的に共同研究をすすめています。また、患者検体を用いた遺伝子変異の同定も盛んにおこなわれています。これまでに蓄積された経験をさらに拡大させつつ、現在、下記のように多くのプロジェクトが推進されています。

2.研究内容について 

現在は磯、中島、前野、小和瀬、小板橋、松井が中心になってそれぞれのプロジェクトを推進しています。磯は心血管系でのNotchシグナル、PPARα/γ、脂肪酸代謝・糖代謝についての解析を進めています。中島は、ヒト不整脈疾患の原因遺伝子を網羅的に解析しており、そのカバーする疾患は年々広がりを見せています。前野は、日本でも数少ないマウスに対する喫煙実験システムを有していて、多くの大学・研究機関と共同研究を進めつつ、独自に呼吸器疾患の病態解明に取り組んでいます。小和瀬は、血管石灰化のメカニズムについてアプローチしています。小板橋は遺伝子改変マウスモデルに大動脈縮窄(TAC)や心筋梗塞を作成し、心疾患の病態解析を行っています。松井は脂肪酸代謝に焦点を当てて、その観点から心疾患、動脈硬化、呼吸器疾患にアプローチしています。それぞれは独立していますが、必要な情報・手技・材料は共有し、お互いに協力して和気あいあいとした雰囲気の中で研究を進めています。実験材料としてヒトの検体、遺伝子改変マウス、培養細胞などを用いて、分子生物学や形態学などの幅広い方法論を使って研究に取り組んでいます。各論の詳細は、それぞれの担当者が記載していますのでご参照ください。
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3.大学院、博士号をとる意義

通常の大学(学士)と大学院(博士)には違いがあります。学士では既知の学問の習得を目標とするのに対して、博士では共有できる新たな概念を自らが提案することを目標とします。学士では知識や技術を教わる立場であるの対して、博士では知識を生み出し学問の発展に自らが寄与する立場になります。
研究は、例えるなら「未開の地に道を作り橋を架け、地図をつくる」作業のようなものです。出来上がった地図を端から端まで頭に叩き込んで利用することも大切ですが、地図がなければ利用することすらできません。土地を開拓し、道を作り橋を架け、区画を整備し、インフラを整え、ヒトが生活できる環境をつくり、そして地図が出来上がる。こういった過程を経て地図が利用できるようになることを思えば、地図が出来上がるまでの行程のひとつひとつが重要であることがご理解いただけると思います。
生命科学は深遠であり、日々、爆発的な広がりを見せています。一人の人間がすべての領域を網羅し、謎に迫り、真理を探究することはできません。学問の領域が広範囲で、既知の知識を習得することですら並大抵のことではありません。それだからこそ、一時期、ある特定の領域に専念し、自らが情報を発信する(地図の一部になる情報を生み出す)ことは、後の人生にとって、有意義な経験になるはずです。実地臨床の指標となる教科書やガイドライン(地図)も、数多くの臨床研究や基礎研究の集積から生み出されます。しかし、昨日までの常識が明日には使えなくなることもしばしばで、これは既知の知識がすべて正しいわけではないことを意味します。大学院生として自ら研究に参加し実際に経験して学問の成り立ちを体感することで、情報の真偽を見極める知識と判断力が向上し、情報のもつ価値や意義を見出せるようになることでしょう。大学院を修了することは、ひとつの新しい領域(未開の地)を開拓した証になり、物事を深く掘り下げて考え、そして全体を見渡す力を養う、またとない機会になるはずです。

4.研究の面白さ

 パズルやクイズ番組でいち早く解答がわかればだれでも気持ちいいものです。研究はそのスケールを大きくしたものですが、決定的な違いがあります。それは、自分でquestionを設定することです。臨床であれ基礎であれ、現象を突き詰めて考えると必ずquestionが出てきます。そのquestionがより普遍的でヒトと共有できる概念・知識になるものであれば、その学問的価値は高くなります。「だれも知らない大切な情報を自分がはじめて明らかにすること」、これはまさにときめきであり、研究の醍醐味です。この感覚は研究を始める前にはなかなか想像できないと思いますが、一回うまくいくとある種の快感になります。こんなときめきをいっしょに分かち合いましょう。

#各論になりますが、これまで嬉しかったりときめいたりしたことを列挙してみます。
いい実験結果がでた、学会に演題が通った、発表がうまくできて人に褒められた、論文がアクセプトされた、留学が決まった、(恐らく真実だろうと思われる)仮説を思いついた(個人的には一番ときめく瞬間です)、論文に記載したプラスミドのリクエストがきた、科研費・助成金が獲得できた、共同研究がはじまった、学会賞をもらった、知らない研究者に声をかけられた(ヒトに認知された)、学内・学外に知り合いが増えた、チームを持った。
反対に上記がうまくいかなくて落ち込むことも相当な頻度であります。ただ、一回成功体験があると、もう一回経験したくなるタイプの喜びが結構あるので、つらい時期もある程度乗り越えられます。

5.医学博士課程、修士課程について

大学院で生命科学研究を行うにあたり、主に次の3項目が重要になってきます。

(1)その分野の現状を理解し独自の仮説を設定すること(着想)
(2)仮説を証明する方法論を具体化し実践すること(実験)
(3)得られた情報を概念化し、口頭あるいは文章で世の中に還元すること(学会発表と論文掲載)

です。これらの3つの要素はすべて重要で、いずれが欠けてもオリジナリティの高い、世界水準の生命科学研究は成立しません。それらを習得することが大学院生の最終目標になります。着想・仮説の部分は入学当初の多くの大学院生にとって困難なものと予想されますので、最初の段階では指導者のテーマに沿って実験を開始していただくことになります。はじめは実験上の手技を学びデータを積み重ね、その領域の知識を蓄えて、次に国内・海外の学会で発表し、最終的に英文論文を作成することになります。この過程で自らの疑問を持つよう鍛錬し、最終的に独自の構想をたてられるよう援助していきたいと思います。また、大学院での生活はすべての過程で高い自主性が要求されますので、短期・長期の目標を設定し、その目標に到達できるように自ら動機付けを行っていくことが、充実した大学院生活を送るために必要になってきます。一つひとつに高いクオリティーが要求されますので、最初はハードルが高く感じられますが、それを乗り越えると大きな達成感があります。皆さんの入学をお待ちしています。

Journal Club (論文抄読会)

循環器系に所属するメンバーの一部が自主的に参加し、原則毎週一人ずつ最近の論文を紹介しています。論文を掘り下げて読み込み、プレゼンテーションをするよい練習機会になります。

「循環・代謝・炎症・病態研究セミナー」

国内で活躍されている若手の研究者を招いて、不定期(半年から1年間隔)に開催しています。
第一回 青木浩樹先生、久留米大学、平成23年5月30日
第二回 佐藤公男先生、東北大学、平成24年1月16日
第三回 古橋眞人先生、札幌医科大学、平成24年9月3日
第四回 柴祐司先生、信州大学、平成25年5月27日予定

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